DIC(株)は、快適な室温の維持に貢献するパッシブ蓄熱※1建材「蓄熱シート」を開発した。潜熱蓄熱材料※2を樹脂に分散してシート化することに成功したもので、従来できなかった建築現場でのカットやビス打ちなどの加工を自由にできるようにした。これにより、潜熱蓄熱建材を建築現場で容易に施工できるようにした。
潜熱蓄熱材は、固体―液体間の相転移時の温度特性を利用した材料のため、融点以上の温度では液状化する。そのため、従来ラミネートパッケージ化した材料が建材用にも使用されているが、サイズ変更の困難さや施工時の作業性の悪さから、住宅メーカーや工務店から新しい材料の開発が求められていた。
今回、DICでは独自の塗工技術と配合技術により、潜熱蓄熱材料を劣化させることなく樹脂に均一に配合し、厚膜で塗工成形する技術を確立することで、蓄熱材料の漏出を抑えたシートの開発に成功した。これによりラミネートパッケージ化した潜熱蓄熱材と同様の性能を有しながら、従来は難しかった施工現場での切断や曲げ、ネジ止めなどが可能となるため、施工作業性の大幅な改善が期待できる。また、石膏ボードや床材といった一般建材と予め組み合わせることも容易になり、潜熱蓄熱の効果を住宅・建築へ組み込む手段を広げる。従来難しかった壁や天井への施工も可能になる。
DICではNEDO※3の「太陽熱エネルギー活用型住宅の技術開発」に参画し今回の製品の検証を進めてきたが、このたび、実証を共同で行ってきたことを通じてOMソーラー(株)で初めて採用されることが決定した。同製品の販売は、DICグループで建築建材の販売・製造を担うDICデコール(株)がこの7月から開始する。
OMソーラー社では従来より、太陽熱を利用した暖房システムを展開している。同製品を同システムと併用し、日中の太陽熱を吸熱させ、気温が低下する夜間に放熱することで、室温低下を緩和し、暖房エネルギーを削減することができる。
東京大学・前研究室がNEDOの実証棟にて行ったシミュレーションによると、蓄熱シートを使用した際の年間暖房エネルギー削減率は、19.1%(東京の実証棟)、14.7%(埼玉の実証棟)という結果が得られた。なお、同製品は、夏場には夜から朝にかけての涼しい外気を取り込むことで蓄冷材料としても使用することができるため、日中の室温上昇を緩和させる効果も期待できる。
住宅市場における、省エネや快適・健康に対するニーズは年々高まっており、様々な構造、工法、材料が提案されている。新しい材料である蓄熱建材に関しては、普及、発展を目的に蓄熱建材コンソーシアムが設立され、DICも発足時から参画している。同コンソーシアムでは、蓄熱建材の性能測定方法などを定めたJIS規格・JSTM規格による標準化や、住宅での効果予測シミュレーションの検討を進め、住宅メーカーや施工業者が採用しやすい環境を整える取り組みを進めている。
同製品は、このたび蓄熱建材として販売を開始したが、今後はそれ以外の用途として、医薬品などの定温輸送向け資材用途や施設園芸向けなどの農業用途といった様々な市場に向けて、DICの蓄熱シートの有効性を確認するためのマーケティング活動を進めていく。
※1 自然エネルギーを利用して吸放熱する建材
※2 潜熱蓄熱材:潜熱とは、物質が温度変化なく、固体―液体―気体の状態変化を行うために発生または吸収する熱のこと。潜熱蓄熱材において、蓄熱は、液体から固体に変化する際の発熱を、蓄冷は、固体から液体への変化の際の吸熱を利用したもの
※3 国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構
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【パッシブ蓄熱建材】DIC、太陽熱を有効に活用する「蓄熱シート」開発。シート化の成功により、住宅への施工が容易に
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