BASFは、2017年6月29日、独本社にてリサーチプレスカンファレンスを開催し、化学研究のデジタル化やそのツール、用途についての見解を発表した。BASFの戦略的目標は、デジタル化によってバリューチェーン全体にもたらされる膨大な機会を積極的に活用すること。そして、新たなテクノロジーを利用してイノベーション力や競争力をさらに高めるためには、研究開発が重要な役割を果たす。
BASF取締役会副会長兼最高技術責任者(CTO)であるDr. マーティン・ブルーダーミュラーは次のように述べている。
「研究開発においてデジタルテクノロジーをこれまで以上に活用することで、化学業界において世界で最も革新的な企業としての地位を強化します。特に、新しいスーパーコンピューターの活用により、複雑な課題を非常に効率よく研究することができ、新製品の市場投入に要する時間をさらに短縮することが可能になります。お客様のニーズに合わせた化学に基づくイノベーションの需要に、より一層応えられるようになるでしょう」
プレスカンファレンスでは様々な応用分野の専門家が、研究開発におけるデジタル化が実際どのように機能するかについて発表した。重要な要素としては、ルートヴィッヒスハーフェンで今夏稼働し始める新しいスーパーコンピューターが挙げられる。このスーパーコンピューターの計算能力は1.75ペタフロップスで、これは現在BASFが研究のためのシミュレーションに投じているコンピューターの計算能力の約10倍に相当する。このスーパーコンピューターは、スーパーコンピューターの性能ランキング「TOP 500」で65位となっている。また、このスーパーコンピューターの名前について社内コンテストを実施した結果、「Quriosity」と名付けられた。この投資は製品開発における新境地開拓の大きな可能性を表現している。
マイクロカプセルのコンピュターシミュレーションについて議論するBASFの研究者
仮想実験と現実の実験が互いを補完
デジタルテクノロジーの研究開発への影響が急速に拡大している。大量のデータを管理することが、将来の科学的成功、そしてビジネスの成功における決定的要因となっている。BASFのデジタルアプローチでは、仮想モデリングやコンピュータシミュレーションが、研究室内で行われる実際の実験と密接に連携し、互いを補完している。シミュレーションが実験の計画から、その結果の予測まで容易にする一方、実際の実験は実測値を提供し、コンピュータモデルの精度の検証が行われる。これにより、化学製品や化学プロセスをより深く理解することが可能になり、優れたイノベーションをより短期間で実現する。
デジタル化によって、研究者はクリエイティブなアイデアを実行に移し、世界中の人たちと連携していく一層の機会を得ることができる。BASFの専門家は、デジタルテクノロジーを研究開発ユニットの日常業務に直接組み込むことは必要不可欠だと考えている。問題を効果的に解決するには、知見を蓄積したシステムに直接アクセスすることが必要であり、それが新たな展望を開くことにつながる。例えば、クラウドベースのアプリプラットフォームを活用すれば、あらゆる研究者が知見を蓄積したデータネットワークを容易に拡大できるようになる。
BASFの研究者がここ数カ月で行ったプロジェクトの成功により、デジタル化が研究にもたらす大きな可能性が証明された。例えば、中間体の製品であるエチレンオキシドの製造に使われる触媒に関するデータの体系的調査を、研究者たちは初めて行うことができた。この調査により、触媒のフォーミュレーションと応用特性の間に相関性が見出だされ、触媒の性能と寿命を、より正確かつ迅速に予測できるようになった。
大量のデータのターゲットサーチ
有効成分の安定したフォーミュレーションに使用される、新たな機能性ポリマーのモデリングにおいても、デジタルテクノロジーが決定的な役割を果たした。BASFの専門家は10,000を超える可能性の中から、適切なポリマー構造を特定することができた。その後、実際にそのポリマーを合成し、望ましいフォーミュレーションが得られ、非常に高濃度のエマルションの生産が可能になった。こうしたモデリングは、今やフォーミュレーションの開発において定着した要素となっている。
「データマイニング」では、膨大な量の既存データから有用な知識を抽出することができる。例えばバイオテクノロジーの分野における製品開発やプロセス開発では、見込みのある酵素を迅速に特定したり、適切なバクテリアを発見したりすることも考えられる。
デジタル化は農業生産者もサポート
BASFは内外の協力を得ながら、農業のデジタル変革においても重要な役割を果たしている。Maglis®は、農業生産者が入手可能な情報を一層効率よく利用して、耕作について適切な決定ができるようにするオンラインアプリケーション。BASFが今年5月末に買収したZedX社は、気象、植物の生長と病気の蔓延、雑草、害虫に関する農学的なモデリングの開発を専門的に行う企業。BASFとZedXは、気象と環境条件に基づいてBASFの除草剤の適切な使用方法を特定するモデルを、すでに共同開発している。
研究開発への投資額で、高い水準のコミットメントを示す
BASFは、過去数年にわたり研究開発に対して行ってきた高水準の投資を、今後も維持していくことを目指している。2016年の研究開発への支出額は18億6,300万ユーロに達した。これは植物バイオテクノロジー分野における活動の構造的調整のため、前年(19億5,300万ユーロ)比で微減となった。2016年、BASFの研究パイプラインでは約3,000のプロジェクトが行われており、世界各地の研究開発部門に所属する約10,000人の社員が従事している。またBASFは、様々な分野において約600の大学、研究機関、企業と協力パートナーシップを構築している。こうしたグローバルなネットワークが、ノウハウ・フェアブントの重要な柱となっている。