帝人(株)は、京都大学発のEVメーカーであるGLM(株)(本社:京都市左京区、社長:小間 裕康)が製造・販売するスポーツEV「トミーカイラZZ」向けとして、世界で初めてポリカーボネート樹脂製のピラーレスフロントウィンドウを開発した。樹脂製のフロントウィンドウが市販車に採用されるのも世界で初めて。
1.開発の背景
(1)帝人は車両軽量化に向けた取り組みとして、ガラスの1/2の軽さと200倍の耐衝撃性を有するポリカーボネート(PC)樹脂の特性を活かし、列車の窓や、自動車のパノラマルーフ、クォーターウィンドウなどのグレージング(樹脂窓)開発を進めてきた。
(2)今年3月には、ウェット法でハードコートしたPC樹脂にプラズマCVD法(*)でハードコートを追加することにより、ガラス並みの耐摩耗性と耐候性を付与する技術を開発した。また、月島機械(株)と共同開発した設備により、プラズマCVD法で実車サイズの大型樹脂窓や複雑な曲面を有する樹脂窓も均一にコーティングできるようになった。
*プラズマCVD法:ハードコート材料をガス化し、対象物の表面にコーティングする方法。
(3)GLMは、部品開発において(株)安川電機やオムロン(株)など国内有力企業と幅広い協力関係を築いており、日本のテクノロジーショーケースとなるような車づくりを目指している。2015年10月にはスポーツEV「トミーカイラZZ」の量産を開始している。
(4)一方、自動車のフロントウィンドウには、衝突時の安全確保をはじめ、光の透過性や耐摩耗性といった様々な要求特性があり、自動車保安基準により、これまではPC樹脂を使用することができなかった。また、ウィンドウを支え、前方衝突時に搭乗者を守る役割があるAピラー(支柱)には、太くすると前方の視界を妨げてしまうという課題があった。
(5)こうした中、自動車保安基準が改正されることになり、今年7月より国内で発売される新車種の窓には、ガラスと同等の高い耐摩耗性が求められるようになるとともに、フロントウィンドウにPC樹脂の使用が可能となることから、世界初となるPC樹脂製のピラーレスフロントウィンドウを開発し、GLMの「トミーカイラZZ」に搭載されることになった。
2.PC製の樹脂窓について
(1)開発されたPC樹脂製のピラーレスフロントウィンドウは、通常Aピラーがあるフロントウィンドウ周辺部に厚みをもたせることにより、世界で初めてAピラーレスを実現。
(2)PC樹脂製のピラーレスフロントウィンドウは、高い耐摩耗性と優れた耐候性を有し、本年7月から適用される新しい自動車保安基準を満たしている。
(3)フロントガラスとAピラーが一体となった透明な樹脂窓とすることで、視界を遮るものがなくなり、安全確保と爽快なドライビングに寄与する。
(4)PC樹脂製のピラーレスフロントウィンドウとすることにより、従来のガラス窓とAピラーの組み合わせに比べて36%の軽量化を実現し、自動車の走行性能の向上に寄与している。
3.今後の展開
(1)PC樹脂製のピラーレスフロントウィンドウを装着した「トミーカイラZZ」は、6月28日からポートメッセなごやで開催される「人とくるまのテクノロジー展 2017」において初公開される。
(2)GLMは公道を走行するための国内認証を取得する予定。今秋を目途に、このPC樹脂製のピラーレスフロントウィンドウを「トミーカイラZZ」のオプションとして加えられる計画。
(3)帝人は、日本国内のみならず、新しい自動車保安基準に相当する特性が求められる欧米の自動車メーカーに向けて市場開拓を進めていく。
(4)帝人は、軽くて強い高機能素材やそれらの複合化による自動車向け複合材料事業の拡大を中期経営計画の発展戦略として掲げており、車体軽量化を総合的に提案できる部品供給パートナーとなることを目指す。