
レーザー加工は、非接触である特長を生かして、金属や樹脂、脆性材料などのあらゆる材料に対して機械加工や放電加工では困難な精密加工が可能。特に、深紫外ピコ秒パルスレーザーは「深紫外」と「ピコ秒」の2つの特徴を持つ。1つ目の特徴である深紫外光は、ほとんどの材料に対して高い吸収特性を持ち、集光径を小さくすることができるため既存のレーザーではできなかった樹脂、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)※1、ガラスなどの難加工材料に対する微細加工ができる。2つ目の特徴であるピコ秒は、ピコ秒(1兆分の1秒)という超短時間の光照射により照射部の熱が周囲に拡散する前に加工(蒸散)を行うことができるため、材料が熱による影響を受けにくく、高品位な加工ができる。深紫外ピコ秒パルスレーザーは以上の2つの特徴を併せ持ち、穴あけ、切断、パターニング、剥離などさまざまな加工を高品位で微細に行えるが、従来は、低出力による生産性の低さが課題となり生産設備への導入が進んでいなかった。加えて、低い波長変換効率のため、高出力化が困難であった。
このような背景のもと、国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は、「高輝度・高効率次世代レーザー技術開発※2」に取り組んでおり、今般、スペクトロニクス(株)と共同で、波長266nmの深紫外ピコ秒パルスレーザー発振器で世界最高クラスとなる出力8Wの発振器を開発した。
このレーザー発振器は、従来の出力向上の課題を近赤外レーザー発生技術と高効率波長変換技術の開発により解決し、8Wという高出力を実現した。これにより、生産性と高品位加工性を両立できるレーザー加工のツールとして、電子部品、電気自動車、航空・宇宙などの産業で、部品および素材加工に活用されることが期待できる。
なお、スペクトロニクスは、パルス幅が15ピコ秒以下の深紫外短パルスレーザー発振器として世界に先駆けて3月23日から販売を開始する。
このような背景のもと、国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は、「高輝度・高効率次世代レーザー技術開発※2」に取り組んでおり、今般、スペクトロニクス(株)と共同で、波長266nmの深紫外ピコ秒パルスレーザー発振器で世界最高クラスとなる出力8Wの発振器を開発した。
このレーザー発振器は、従来の出力向上の課題を近赤外レーザー発生技術と高効率波長変換技術の開発により解決し、8Wという高出力を実現した。これにより、生産性と高品位加工性を両立できるレーザー加工のツールとして、電子部品、電気自動車、航空・宇宙などの産業で、部品および素材加工に活用されることが期待できる。
なお、スペクトロニクスは、パルス幅が15ピコ秒以下の深紫外短パルスレーザー発振器として世界に先駆けて3月23日から販売を開始する。
今回の成果
【1】近赤外レーザー発生技術の開発
深紫外ピコ秒パルスレーザー発振器は、狭スペクトル幅の波長1064nmのパルス光を生み出すパルス発生部、これを増幅する光パルス増幅部からなる近赤外レーザー部と、深紫外線を生み出す波長変換部によって構成されている(図2)。
図2 深紫外ピコ秒パルスレーザー発振器の概念図
【1】近赤外レーザー発生技術の開発
深紫外ピコ秒パルスレーザー発振器は、狭スペクトル幅の波長1064nmのパルス光を生み出すパルス発生部、これを増幅する光パルス増幅部からなる近赤外レーザー部と、深紫外線を生み出す波長変換部によって構成されている(図2)。

パルス発生部では光通信技術によって培われた堅牢なDFB半導体レーザー※3をパルス光源に採用し、高速なパルス電流注入により15ピコ秒以下のパルス光を発生させることに成功した。図3に示されるように高速電流ドライバーを用いて半導体レーザーをパルス変調して緩和振動※4を発生させ、電流制御によって第2ピーク以降を抑圧する駆動法(ゲインスイッチ駆動)を採用した。特に、高速電流ドライバーを新規開発することにより、安定したピコ秒パルス発生部を組み込み可能な手のひらサイズで実現した。また、光パルス増幅部には、ファイバレーザー技術と固体レーザー技術を融合したオリジナリティーの高い技術を採用し、DFB半導体レーザーから得られる光の特性(狭帯スペクトル)を損なうことなく80dB以上の増幅を実現した。
図3 DFB半導体レーザーのゲインスイッチ駆動原理図と実物写真

【2】高効率波長変換技術(長期安定稼働の実現へ)の開発
深紫外レーザーの課題であった波長変換結晶の劣化による出力低下を、高効率波長変換により抑制した。CLBO結晶※5による中間波長(可視レーザー)からの深紫外レーザー発生効率は、従来の短パルス近赤外レーザーを用いた場合、20%前後だが、今回開発した近赤外レーザー技術を用いた場合、60%を超える変換効率を実現する。この高効率特性をもとに波長変換部の最適化設計を行った結果、結晶劣化を抑制可能な動作条件下で実用的な変換効率と深紫外光パワーを両立することに成功した。
この技術により波長266nm平均出力10Wの連続動作で10,000時間を世界で初めて達成した(図4)。また、繰り返し周波数とパルス幅は200kHz、10ピコ秒で、CLBO結晶のシフト技術※6は使用せずに達成した。このように深紫外発生部が長寿命化することで、生産現場におけるメンテナンス周期が長くなり、生産性向上に大きく貢献できる。
図4 266nmピコ秒パルスレーザーの連続発生データ
深紫外レーザーの課題であった波長変換結晶の劣化による出力低下を、高効率波長変換により抑制した。CLBO結晶※5による中間波長(可視レーザー)からの深紫外レーザー発生効率は、従来の短パルス近赤外レーザーを用いた場合、20%前後だが、今回開発した近赤外レーザー技術を用いた場合、60%を超える変換効率を実現する。この高効率特性をもとに波長変換部の最適化設計を行った結果、結晶劣化を抑制可能な動作条件下で実用的な変換効率と深紫外光パワーを両立することに成功した。
この技術により波長266nm平均出力10Wの連続動作で10,000時間を世界で初めて達成した(図4)。また、繰り返し周波数とパルス幅は200kHz、10ピコ秒で、CLBO結晶のシフト技術※6は使用せずに達成した。このように深紫外発生部が長寿命化することで、生産現場におけるメンテナンス周期が長くなり、生産性向上に大きく貢献できる。

今後の予定
NEDOは、引き続き本事業で深紫外域においてパルス幅10ピコ秒級で発振する平均光出力50Wの深紫外・短パルスレーザー装置の開発を目指す。スペクトロニクスは、今回の8W発振器の製品化以降も、さらに大出力の製品開発を予定している。
<注釈>
※1 炭素繊維強化プラスチック(CFRP)
プラスチックと炭素繊維を組み合わせた複合材料。金属と比較して軽いが強い応力に対して形状を維持できないプラスチックと高強度で応力に対する復元力に優れた炭素繊維を組み合わせることで、軽い特徴を維持したまま構造部材への適応を可能とした素材。
※2 高輝度・高効率次世代レーザー技術開発
事業名:高輝度・高効率次世代レーザー技術開発/高品位レーザー加工技術の開発/深紫外・短パルスレーザー装置の開発
事業期間:2016年度~2020年度
※3 DFB半導体レーザー
分布帰還型(Distributed Feedback:DFB)レーザーを示し、共振器内に回折格子構造を持たすことで堅牢かつ安定に狭スペクトル幅のレーザー発振を可能にしたレーザー発振器。
※4 緩和振動
レーザー発振器をパルス変調すると変調周波数よりも高い周波数の振動が発生する現象。
※5 CLBO結晶
国立大学法人 大阪大学によって発明された化学組成CsLiB6O10の新非線形光学結晶で、紫外光発生に適した特徴を持つ。
※6 シフト技術
CLBO結晶素子の使用位置を連続または断続的に変化させることで、結晶劣化の低減や結晶素子の全域をくまなく使用する技術。
NEDOは、引き続き本事業で深紫外域においてパルス幅10ピコ秒級で発振する平均光出力50Wの深紫外・短パルスレーザー装置の開発を目指す。スペクトロニクスは、今回の8W発振器の製品化以降も、さらに大出力の製品開発を予定している。
<注釈>
※1 炭素繊維強化プラスチック(CFRP)
プラスチックと炭素繊維を組み合わせた複合材料。金属と比較して軽いが強い応力に対して形状を維持できないプラスチックと高強度で応力に対する復元力に優れた炭素繊維を組み合わせることで、軽い特徴を維持したまま構造部材への適応を可能とした素材。
※2 高輝度・高効率次世代レーザー技術開発
事業名:高輝度・高効率次世代レーザー技術開発/高品位レーザー加工技術の開発/深紫外・短パルスレーザー装置の開発
事業期間:2016年度~2020年度
※3 DFB半導体レーザー
分布帰還型(Distributed Feedback:DFB)レーザーを示し、共振器内に回折格子構造を持たすことで堅牢かつ安定に狭スペクトル幅のレーザー発振を可能にしたレーザー発振器。
※4 緩和振動
レーザー発振器をパルス変調すると変調周波数よりも高い周波数の振動が発生する現象。
※5 CLBO結晶
国立大学法人 大阪大学によって発明された化学組成CsLiB6O10の新非線形光学結晶で、紫外光発生に適した特徴を持つ。
※6 シフト技術
CLBO結晶素子の使用位置を連続または断続的に変化させることで、結晶劣化の低減や結晶素子の全域をくまなく使用する技術。