富士フイルム(株)は、「ビッグデータ・IoT時代を支えるバリウムフェライト磁性体を用いた大容量データテープの開発」で、(一社)科学技術と経済の会(JATES)(*1)が主催する第7回技術経営・イノベーション賞「経済産業大臣賞」を受賞した。「技術経営・イノベーション賞」は、世の中を変革する優れたイノベーション事例を表彰し、その内容や実践プロセスを広く紹介することで、経済の発展、社会の変革、グローバル競争力の向上等に貢献することを目的として2012年度に創設され、今回で7回目。
今回の受賞は、磁気特性・長期保存性に優れる「バリウムフェライト(以下、BaFe)磁性体」を世界で初めてデータ記録用磁気テープの材料に採用し、データを保管する際のトータルコスト(*2)を削減することで、「活用が進むビッグデータを安全・安価に長期保管したい」という社会のニーズにこたえたこと、また、磁気テープのさらなる大容量化の道を切り拓いた点が高く評価された。
<受賞者>
助野健児氏(代表取締役社長)
岩嵜孝志氏(取締役常務執行役員)
野口 仁氏(R&D統括本部エレクトロ二クスマテリアルズ研究所長)
森田清夫氏(記録メディア事業部生産部長)
<受賞案件の概要>
●開発の背景
昨今、AI・IoTの進展や4K・8K映像の普及、遺伝子解析・創薬におけるスーパーコンピュータの使用拡大などにより、世界中で生成されるデータ量は爆発的に増加しており、2025年には163ZB(ゼタバイト(*3))を超えると見込まれている(*4)。また、生成されてから時間が経ちアクセスされることが少なくなった「コールドデータ」は、全データの8割以上を占めるといわれている。蓄積されたビッグデータを活用する動きが急速に進む中、これらのデータを安全・安価に長期保管したいというニーズがますます高まっている。磁気テープは、可搬性・長期保存性といった特長を有するだけではなく、ネットワークから隔離した状態(エアギャップ)でデータ保管が可能であるためシステム障害やウイルス感染などによるデータ破損・消失のリスクが低いことや、HDDと比べて消費電力が少なく環境負荷が小さいことなどから、その大容量化が求められていた。
●成果
•磁気特性・長期保存性に優れる微粒子「BaFe磁性体」を開発し、2011年に世界で初めてデータ記録用磁気テープに採用。記録密度を劇的に高め容量単価を低減することで、データを保管する際のトータルコストの削減に貢献し、「急増する世の中のデータを安全・安価に長期保管したい」という社会のニーズに応えた。
•同社独自の「BaFe磁性体」により、従来技術では限界に近づいていた磁気テープの記録容量を飛躍的に向上。磁気テープのさらなる大容量化の道を切り拓いた。
•2015年、IBM社と共同で123Gbpsi(*5)(1巻当たり220TBの記録容量に相当)の技術実証を成功させ、将来にわたり市場のニーズに応える記録媒体であることを示した。
●成果を実現した主要技術
•微粒子BaFe磁性体の合成技術
•微粒子BaFe磁性体の均一分散技術
•超薄層均一磁性層の高速塗布技術
富士フイルムは、今後も世界シェアNo.1(*6)の磁気テープメーカーとして、顧客ニーズと信頼に応える高性能・高品質のメディアやサービスを開発・提供し、社会課題の解決に貢献していく。
*1 産業界が主体の異業種交流や研究活動を通じて、科学技術・経済の発展へ貢献することを目的として1966年に設立された団体。
*2 ドライブやサーバなどの導入にかかる初期費用やメンテナンス費用、消費電力などすべてを含めたコスト。例えば、480TBのデータが5年間で2,400TBまで増加した際、トータルコストはHDDを使用した場合に比べ1/8と言われている(JEITA調べ)。
*3 1ZB(1ゼタバイト=1,000,000,000,000GB)は10の21乗バイト。DVD約2,000億枚に相当。
*4 米調査会社IDC調べ。
*5 面記録密度を表す単位であり、Giga bits per square inchの略。
*6 生産者シェア。同社調べ。