ロボットの関節を曲げ伸ばしする駆動源といえば、金属材料や永久磁石を使った硬くて重くかさばる電気モーターが主流となっている。やわらかく安全なロボットを目指し、空気でゴム材料を膨張させて駆動力を得る空気圧式モーターが提案されているが、それを電気制御するためには、ポンプやバルブが別途必要である。
東京大学大学院情報理工学系研究科の川原圭博准教授と新山龍馬講師らの研究グループは、印刷エレクトロニクス技術(注2)を用いることで、薄くやわらかく軽量なモーターを作製することに成功した。低い温度で沸騰する液体が入ったプラスチックフィルムの袋を、導電インク技術を用いて印刷したヒーターで加熱することにより、袋の内部で液体が気化・膨張し、モーターの駆動力を得る仕組みです。自然冷却によってモーターは繰り返し動作することができる。また、ヒーターだけでなく、配線やタッチセンサー、アンテナなども合わせて印刷し、モーターと一体化することができる。
ロボットの関節を模した駆動実験では、開発した大きさ 80mm×25mmのモーターで、モーター本体の重量は約3gと非常に軽量でありながら、最大約0.1N・mの回転力を発生させることができた。また、最大動作角度は90度に達した。やわらかく薄い特徴を生かし、ソフトロボットのアクチュエーターとしての応用が期待される。
なお、本研究の詳細は、シンガポールで開催されるロボットとオートメーションに関する国際会議にて現地時間2017年5月30日(火)に発表される。
印刷エレクトロニクス技術を用いることで実現した薄くやわらかく軽量なモーターの原理の図
印刷技術を用いたモーターの作製プロセス
今回の成果は、以下の事業・研究プロジェクトによって得られた。
科学技術振興機構(JST) 戦略的創造研究推進事業
研究プロジェクト | ERATO川原万有情報網プロジェクト |
研究総括 | 川原圭博(東京大学 大学院情報理工学系研究科 准教授) |
研究期間 | 平成27年10月~平成33年3月 |
この研究プロジェクトでは、センサーネットワークやIoTI機器がより自律的で能動的な人工物として作用し、自然物と共生して新しい価値を生むための万有情報網の構築を目指す。センサーやロボットを低コストで迅速に作ることを可能とするファブリケーション技術の研究開発のほか、IoT機器のサステイナブルな動作の実現のためのエネルギーハーベスティング(環境発電)や無線給電技術の開発に取り組む。
注1) 印刷エレクトロニクス技術
印刷技術を活用し、電子回路やセンサーなどを製造する技術。
注2) アクチュエーター
エネルギーを動力源として物理的な運動に変換させる装置。モーターやエンジンなどが該当。
注3) ベイマックス
2014年アメリカのウォルト・ディズニー・スタジオ製作の長編アニメーション映画。ふわふわした風船のようなやわらかなボディを持つ看護ロボットの「ベイマックス」と主人公の少年の心の交流が描かれている。
注4) 3MTMNovecTM7000
化学的に不活性な低沸点液体。広く普及している有機溶剤であるアセトンのほか、人体や環境への影響を考え、3MTMNovecTM7000も利用した。