大日本印刷(株)(DNP)は、高精細デジタル印刷技術と“匠の技”を駆使して、150年前に締結された「日本・デンマーク修好通商航海条約」の精密な複製(レプリカ)を製作した。このレプリカは、2017年2月7日、外交関係樹立150周年を記念して国立公文書館(東京都)で開催された記念式典において、Mette Bock(メテ・ボック)デンマーク文化大臣から日本の近藤誠一 日デンマーク外交関係樹立150周年推進委員会委員長へ贈呈された。
【レプリカ製作の背景】
2017年は、日本とデンマークの外交関係樹立から150周年にあたる。1867年に締結された「日本・デンマーク修好通商航海条約」の日本側原本は、1923年の関東大震災で焼失したことから、デンマークは今回、外交関係樹立150周年を記念して、デンマーク国立公文書館が所蔵するデンマーク側原本の精密なレプリカを製作し、日本へ寄贈することとした。
このレプリカの製作については、使われている和紙や製本クロスなどと同等の素材の調達および、精巧な印刷で原本を再現する技術や特殊な和綴製本技術などが必要だった。そのため、デンマーク政府からDNPに協力の依頼があり、DNPは、この依頼に応えて製作した。
【DNPの技術を活かしたレプリカの製作方法】
DNPは、「日本・デンマーク修好通商航海条約」を構成する文書のうち、歴史的価値が高い貴重な資料である「批准書(条約を締結する権限を与えられた者の確認・同意を示す文書)」「和文の調印書*1」「蘭文の調印書」「批准書交換証」について、以下の方法でレプリカを製作した。
1. 高精細撮影
「批准書」は背が糊付けされた状態で製本されており、解体すると修復が困難となるため、解体せずに撮影を行った。しかし、本文が袋綴で242頁と厚みがあるため、同一角度で撮影ができないという課題があった。また、批准書の和文頁の和紙には金箔が抄き込まれているため、撮影時に光を反射してしまい、滑らかな階調を再現するのが難しいという課題もあった。こうした課題を解決するため、DNPは、1億画素を超えるデンマーク製の高精細カメラ「Phase One*2」を使用し、カメラアングルとライティング(照明)を駆使して、古文書が持つ独特な風合いや色彩、光沢感を備えた、頁毎に複数の画像データを取得した。
2. 高品質な画像処理および印刷
取得した複数の画像データをもとに、高度な画像処理技術を用いて1頁ずつ印刷用データを作成した。さらに、原本の色調や濃度、階調を忠実に再現するための画像変換テーブルと独自のカラーマネジメント技術を搭載した高精細の多色インクジェットプリンターにより高品質の印刷を実現した。用紙は、原本と風合いと厚みが近い和紙を選定し、さらに印刷により原本の色合いを再現した。
この工程では、高精細な複製原画を1枚から制作する「DNP高精彩出力技術プリモアート®*3」を使用している。プリモアート®は、10色のインキによって通常の印刷機よりも広い色域を再現するなど、その豊かな再現力によって原画のタッチを忠実に再現する。
3. 手作業による和綴・上製本
批准書の製本は、和綴・上製本という特殊な仕様となっている。そこで、DNPグループで製本を手がける大口製本印刷(株)の匠技を持つ熟練技術者が、原本と近い製本クロスなどの素材をもとに、手作業で製作した。
【DNPのデンマークとの関わり】
DNPは、1989年にデンマークに、大型プロジェクション・スクリーンの製造拠点としてDNPデンマークを設立して以来、デンマーク王国と日本国との交流やデンマーク王国への社会貢献に努めてきた。
文化、教育面では、コペンハーゲン・ビジネススクールからの研修生受入れ、同校日本語講座のPCルームへのパソコンと日本語ソフト(電子出版物等)の寄贈、同国オーフス大学への日本語書籍の寄贈などを行ってきた。こうした取組みが評価され、社長の北島義俊は、デンマーク王国から2001年にダネブロー騎士の称号を授与された。また、日デンマーク外交関係樹立150周年推進委員会にも参加しており、両国の交流を推進している。