科学技術振興機構(JST)は、研究成果最適展開支援プログラム(A-STEP)企業主導フェーズ NexTEP-Bタイプの開発課題「超低損失ナノ結晶薄帯製造装置」において、目指していた成果が得られたと評価した。この開発課題は、東北大学 未来科学技術共同研究センターの牧野彰宏教授らの研究成果をもとに設立された(株)東北マグネットインスティテュートに委託し、平成29年4月から平成31年3月にかけて実用化開発を進めていたもの。
東北マグネットインスティテュートは、電気エネルギーの損失を最小限に抑える新しい材料として、東北大学で研究開発された超低損失ナノ結晶注1)薄帯の商業ベースでの量産化を実現するためのプロセス技術と標準設備を開発した。
超低損失ナノ結晶薄帯は、鉄損が低く(エネルギー効率が良い)、飽和磁束密度が高い(小型化が可能)という優れた特徴がある。本開発では、製品板厚35μm、板幅250mmの薄帯を生産できる技術の確立および装置の製作を目標とし、生産設備のるつぼ、ノズル、冷却ロールなどの耐久性を飛躍的に向上させる技術開発も併せて行った。
その結果、試作レベルでは幅245mm、厚さ30μm、さらに量産実証レベルでは生産安定性を加味して幅127mm、厚さ27μmの薄帯の製造に成功した。
今後はナノ結晶薄帯の生産、販売を開始し、さらなる品質向上と低コスト化および生産安定性強化について検証を続け、幅広く電磁鋼板を代替できる応用製品への適用を目指す。
背景
近年の地球温暖化や資源枯渇といった地球規模の問題を背景に、省エネルギー化への取り組みは極めて重要になっている。モーターやトランスにおいては、電気エネルギーの動力への変換や電圧変換の際に、部品の材料(鉄や銅)に起因する電気エネルギーの損失(鉄損、銅損)があり、これらの損失を削減する材料の開発が必要とされていた。
本開発では、東北大学で開発された超低損失で高磁束密度のFe(鉄)基ナノ結晶薄帯をシーズとしている。これは、電磁鋼板に匹敵する高飽和磁束密度に加え、通常はトレードオフの関係にある低鉄損を両立した革新的な軟磁性材料注2)。薄帯の量産化において、品質、コスト、生産安定性を強化できれば、幅広く電磁鋼板を代替できる応用製品への適用、需要拡大が見込まれる。
東北マグネットインスティテュートは、電気エネルギーの損失を最小限に抑える新しい材料として、東北大学で研究開発された超低損失ナノ結晶注1)薄帯の商業ベースでの量産化を実現するためのプロセス技術と標準設備を開発した。
超低損失ナノ結晶薄帯は、鉄損が低く(エネルギー効率が良い)、飽和磁束密度が高い(小型化が可能)という優れた特徴がある。本開発では、製品板厚35μm、板幅250mmの薄帯を生産できる技術の確立および装置の製作を目標とし、生産設備のるつぼ、ノズル、冷却ロールなどの耐久性を飛躍的に向上させる技術開発も併せて行った。
その結果、試作レベルでは幅245mm、厚さ30μm、さらに量産実証レベルでは生産安定性を加味して幅127mm、厚さ27μmの薄帯の製造に成功した。
今後はナノ結晶薄帯の生産、販売を開始し、さらなる品質向上と低コスト化および生産安定性強化について検証を続け、幅広く電磁鋼板を代替できる応用製品への適用を目指す。
背景
近年の地球温暖化や資源枯渇といった地球規模の問題を背景に、省エネルギー化への取り組みは極めて重要になっている。モーターやトランスにおいては、電気エネルギーの動力への変換や電圧変換の際に、部品の材料(鉄や銅)に起因する電気エネルギーの損失(鉄損、銅損)があり、これらの損失を削減する材料の開発が必要とされていた。
本開発では、東北大学で開発された超低損失で高磁束密度のFe(鉄)基ナノ結晶薄帯をシーズとしている。これは、電磁鋼板に匹敵する高飽和磁束密度に加え、通常はトレードオフの関係にある低鉄損を両立した革新的な軟磁性材料注2)。薄帯の量産化において、品質、コスト、生産安定性を強化できれば、幅広く電磁鋼板を代替できる応用製品への適用、需要拡大が見込まれる。
開発内容
1.薄帯製造装置の開発
まず、薄帯形成のプロセス原理の検証用装置をベースに、規模拡大のための設備設計をした。低コスト化と不純物の混入防止のため、溶解炉は傾斜型ではなく直立型のるつぼ構造を採用。250kgの原材料を60分以内に完全に溶解できる。また、中間容器にタンディッシュ炉注3)構造を採用し、冷却ロールとノズルのギャップを自動制御できる構造とした。
次に、薄膜の幅広化と増厚化を実現する大型冷却ロールの設計仕様や、溶解した合金の湯面を安定化させる中間容器のタンディッシュ炉の仕様を、CAE(Computer Aided Engineering)を使って設計し、加熱源であるIHヒーターの誘導加熱注4)の能力や冷却ロールの冷却能力についてもシミュレーションで決定した。
一方、低コスト化のための要素技術開発として、これまでの薄帯製作では、予め成分調整をした母合金を作製し、溶解から薄帯形成を行っていたが、本開発では薄帯製造装置に異なった成分(鉄、ケイ素、ホウ素、リン、銅)を直接投入し、炉内で成分調整をすることで、材料費を約90%削減する目途を得た。るつぼやノズルなどの耐火物の長寿命化は、上記の装置検証の過程で、最適材料を選定、作製した上で、現物で繰り返しテストして耐久性を確認した。
これらの製造装置(図1)で、業界初の広幅245mmの薄帯形成に成功し(図2)、量産化のめどを付けた。


2.熱処理装置の開発
薄帯製造装置で形成された薄帯は所定の熱処理を施し、ナノ結晶粒を成長させ仕様に合致した磁気特性となる。熱処理技術の開発においては、実験機での温度プロファイルや結晶化度のデータをもとに、従来の4倍の速度で処理できる装置を開発した。装置性能として、炉内温度制御:500±2℃、材料の昇温能力:400℃/分を満たすことで、送り速度200mm/秒において設計通りの温度プロファイルを達成した。得られた薄帯の磁気特性は、飽和磁束密度:1.77テスラ(T)、保持力:8.3アンペア毎メートル(A/m)を示し、ユーザーの要求仕様を満たしていることが確認された(図3)。

期待される効果
一般家庭の生活から排出されるCO2の量は、エネルギー種別では電気の使用によるものが69%と大半を占める(環境省、平成30年度)。中でも、24時間稼働している冷蔵庫と、200Vの電圧を要するエアコンは消費電力量が大きく、消費電力の約2割がこの両者によるものとされている。仮に、これらの消費電力が3%削減できたとした場合、72万トンのCO2排出量削減が可能であるという試算になる。
また、世界で使われる電力量の約半分がモーターの電力消費量が占めると言われており、高効率のモーターが求められている。現在、モーターに用いられている電磁鋼板の代替として、超低損失ナノ結晶薄帯の厚板化、幅広化、低価格化が進めば、民生機器用モーター以外にも用途が拡大する。例えばEV化が進む自動車では電力損失の削減が直接走行距離に結び付くためニーズが高く、また産業機器やインフラ用途でも各種トランス、リアクトルなどの主要部品へ本材料を適用すれば省エネルギーにつながる。
軟磁性材料世界市場規模としては平成29年度において約3兆円で、そのうち本開発品の薄帯が代替できる領域は38%で1兆1400億円に相当する。今後、日本の産業に大きく貢献できると期待される。
<用語解説>
注1)超低損失ナノ結晶
鉄を質量比で93~94%を含む高鉄濃度の材料で、構造は10nm程度のα-鉄(α-Fe)のナノ結晶粒の周りにアモルファス磁性層を持つ高鉄濃度型の超低損失ナノ結晶磁性材料。アモルファス磁性層の組成はケイ素(Si)やホウ素(B)、リン(P)、銅(Cu)など一般的な元素で構成されている。
注2)軟磁性材料
磁場が変動するモーター、トランス、リアクトルのコアおよび磁気シールド板などに用いられる、保磁力が小さく透磁率の大きい材料。
注3)タンディッシュ炉
連続鋳造の際、溶かした金属を鋳型に流し込む前に貯蔵する中間容器としての炉。
注4)誘導加熱
導電性材料(主に金属)を加熱するための非接触の加熱方式。
注1)超低損失ナノ結晶
鉄を質量比で93~94%を含む高鉄濃度の材料で、構造は10nm程度のα-鉄(α-Fe)のナノ結晶粒の周りにアモルファス磁性層を持つ高鉄濃度型の超低損失ナノ結晶磁性材料。アモルファス磁性層の組成はケイ素(Si)やホウ素(B)、リン(P)、銅(Cu)など一般的な元素で構成されている。
注2)軟磁性材料
磁場が変動するモーター、トランス、リアクトルのコアおよび磁気シールド板などに用いられる、保磁力が小さく透磁率の大きい材料。
注3)タンディッシュ炉
連続鋳造の際、溶かした金属を鋳型に流し込む前に貯蔵する中間容器としての炉。
注4)誘導加熱
導電性材料(主に金属)を加熱するための非接触の加熱方式。