国立研究開発法人 産業技術総合研究所(AIST)安全科学研究部門 環境暴露モデリンググループの梶原秀夫研究グループ長は、京都大学大学院生存圏研究所の矢野浩之教授と連携し、セルロースナノファイバー(CNF)の一種である、アセチル化リグノCNFが、高い生分解性を持つことを見いだした。このCNFは、京都大学などが開発を進めてきたリグノCNF複合材料の補強用ナノ繊維である。
一般に生分解性プラスチックには強度不足という弱点があるが、高強度の生分解性プラスチックが実現すれば、生分解性プラスチックの用途が拡大でき、海洋プラスチックやマイクロプラスチックの問題解決に貢献すると考えられている。今回の成果は、生分解性プラスチックをアセチル化リグノCNFで補強した高強度の生分解性プラスチック複合材料の開発につながる知見である。この成果は、2019年6月3日~7日に千葉県千葉市で開催された再生可能材料のためのナノテクノロジー国際会議で発表された。
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一般に生分解性プラスチックには強度不足という弱点があるが、高強度の生分解性プラスチックが実現すれば、生分解性プラスチックの用途が拡大でき、海洋プラスチックやマイクロプラスチックの問題解決に貢献すると考えられている。今回の成果は、生分解性プラスチックをアセチル化リグノCNFで補強した高強度の生分解性プラスチック複合材料の開発につながる知見である。この成果は、2019年6月3日~7日に千葉県千葉市で開催された再生可能材料のためのナノテクノロジー国際会議で発表された。

開発の社会的背景
近年、石油の価格上昇や枯渇リスク、CO2排出量の増大に伴う温暖化問題等の課題を乗り越えるために、バイオマス由来の新素材に関心が高まっている。その1つが、CNFやリグノCNF(以下、両者を総称してCNFと呼ぶ)であり、その製造、利活用、安全性に関する研究開発が進められてきた。一方、最近、海洋プラスチック問題やマイクロプラスチック問題が注目を集めている。その解決法の1つとして製品に用いられるプラスチックを、環境中に廃棄されても微生物の作用により速やかに生分解される生分解性プラスチックに代替することが考えられる。しかし、生分解性プラスチックには強度が弱いという弱点があり、用途範囲が限定されている。
近年、石油の価格上昇や枯渇リスク、CO2排出量の増大に伴う温暖化問題等の課題を乗り越えるために、バイオマス由来の新素材に関心が高まっている。その1つが、CNFやリグノCNF(以下、両者を総称してCNFと呼ぶ)であり、その製造、利活用、安全性に関する研究開発が進められてきた。一方、最近、海洋プラスチック問題やマイクロプラスチック問題が注目を集めている。その解決法の1つとして製品に用いられるプラスチックを、環境中に廃棄されても微生物の作用により速やかに生分解される生分解性プラスチックに代替することが考えられる。しかし、生分解性プラスチックには強度が弱いという弱点があり、用途範囲が限定されている。
研究の経緯
AISTでは、CNFの安全性評価手法の開発を進めてきた。安全性の評価項目には、環境中での生分解性があり、試験に必要な計測法の開発を行いながら、代表的なCNFのデータの取得を行ってきた。この成果は新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の委託事業「非可食性植物由来化学品製造プロセス技術開発/研究開発項目②木質系バイオマスから化学品までの一貫製造プロセスの開発/セルロースナノファイバーの一貫製造プロセスと部材化技術開発プロジェクト/CNF安全性評価手法の開発(2017~2019年度)」の支援により得られた。
一方、京都大学では、各種プラスチックをリグノCNFで補強したリグノCNF複合材料の製造プロセス(京都プロセス)の開発を行い、リグノCNFの添加によりプラスチックの強度を大きく向上できることを示してきた。この成果はNEDOの委託事業「非可食性植物由来化学品製造プロセス技術開発/研究開発項目②木質系バイオマスから化学品までの一貫製造プロセスの開発/セルロースナノファイバーの一貫製造プロセスと部材化技術開発プロジェクト(2013~2019年度)」の支援により得られた。
アセチル化リグノCNFは、無処理のCNFに比べて疎水性が高く、生分解性の著しい低下が懸念されている。そのため、高強度の生分解性プラスチック複合材料の開発に京都プロセスを適用するには、アセチル化リグノCNFの生分解性の確認が重要と考えられていた。
AISTでは、CNFの安全性評価手法の開発を進めてきた。安全性の評価項目には、環境中での生分解性があり、試験に必要な計測法の開発を行いながら、代表的なCNFのデータの取得を行ってきた。この成果は新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の委託事業「非可食性植物由来化学品製造プロセス技術開発/研究開発項目②木質系バイオマスから化学品までの一貫製造プロセスの開発/セルロースナノファイバーの一貫製造プロセスと部材化技術開発プロジェクト/CNF安全性評価手法の開発(2017~2019年度)」の支援により得られた。
一方、京都大学では、各種プラスチックをリグノCNFで補強したリグノCNF複合材料の製造プロセス(京都プロセス)の開発を行い、リグノCNFの添加によりプラスチックの強度を大きく向上できることを示してきた。この成果はNEDOの委託事業「非可食性植物由来化学品製造プロセス技術開発/研究開発項目②木質系バイオマスから化学品までの一貫製造プロセスの開発/セルロースナノファイバーの一貫製造プロセスと部材化技術開発プロジェクト(2013~2019年度)」の支援により得られた。
アセチル化リグノCNFは、無処理のCNFに比べて疎水性が高く、生分解性の著しい低下が懸念されている。そのため、高強度の生分解性プラスチック複合材料の開発に京都プロセスを適用するには、アセチル化リグノCNFの生分解性の確認が重要と考えられていた。
研究の内容
京都プロセスによるリグノCNF複合材料中のアセチル化リグノCNFは、アセチル化パルプとプラスチックペレットとの溶融混練プロセスでプラスチックと混合されながら解繊されナノファイバー化したものなので、複合材料中から単体として取り出せない。そこで、今回の生分解性試験に用いたアセチル化リグノCNF(図1)は、アセチル化パルプをアトライター装置でのアルミナビーズ攪拌(かくはん)により解繊して得た。また、アセチル基の置換度(DS)は、プラスチックとの十分な混合と強度補強が可能と確認された値0.69とした。
アセチル化リグノCNFの生分解性は、化学物質審査規制法で、一般環境での生分解性評価のために用いられている試験方法(OECD TG301C:Modified MITI TEST(Ⅰ))によって調べた。この生分解性試験法では、活性汚泥(30mg/L)と対象試料(100 mg/L)を入れた25±1 ℃の培地での28日間の生物学的酸素要求量(BOD)を測定する。ここで用いる活性汚泥は、全国の下水処理場、河川、湖沼、海表層水など10カ所から採取された汚泥を培養することで得るものであり、一般環境での微生物を含むものといえる。
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京都プロセスによるリグノCNF複合材料中のアセチル化リグノCNFは、アセチル化パルプとプラスチックペレットとの溶融混練プロセスでプラスチックと混合されながら解繊されナノファイバー化したものなので、複合材料中から単体として取り出せない。そこで、今回の生分解性試験に用いたアセチル化リグノCNF(図1)は、アセチル化パルプをアトライター装置でのアルミナビーズ攪拌(かくはん)により解繊して得た。また、アセチル基の置換度(DS)は、プラスチックとの十分な混合と強度補強が可能と確認された値0.69とした。
アセチル化リグノCNFの生分解性は、化学物質審査規制法で、一般環境での生分解性評価のために用いられている試験方法(OECD TG301C:Modified MITI TEST(Ⅰ))によって調べた。この生分解性試験法では、活性汚泥(30mg/L)と対象試料(100 mg/L)を入れた25±1 ℃の培地での28日間の生物学的酸素要求量(BOD)を測定する。ここで用いる活性汚泥は、全国の下水処理場、河川、湖沼、海表層水など10カ所から採取された汚泥を培養することで得るものであり、一般環境での微生物を含むものといえる。

試験に用いたアセチル化リグノCNF生分解度は89±4%であった(3試料の平均と標準偏差)。被験物質を良分解性と判定する基準の60%よりも十分大きく、比較のため並行して試験を実施したアセチル化処理していないCNF(TEMPO酸化CNF、リン酸エステル化CNF、機械解繊CNF)と遜色のない値であった。これらのことから、アセチル化リグノCNFは、一般環境中に存在する微生物による分解を受けると判断でき、環境に優しい高機能性材料といえる。
なお、プラスチックと複合化したアセチル化リグノCNFは、プラスチック中では生分解を受けて補強性が低下することはない。生分解性プラスチックを補強した場合、プラスチックが環境中で生分解して初めて生分解を受けることになる。
ここで得られたアセチル化リグノCNFが良生分解性であるとの知見は、生分解性でありながら高強度を有する生分解性プラスチック複合材料の開発に道を開くものであり、生分解性プラスチックの用途を広げることで、海洋プラスチック問題解決に貢献できる可能性がある。
なお、プラスチックと複合化したアセチル化リグノCNFは、プラスチック中では生分解を受けて補強性が低下することはない。生分解性プラスチックを補強した場合、プラスチックが環境中で生分解して初めて生分解を受けることになる。
ここで得られたアセチル化リグノCNFが良生分解性であるとの知見は、生分解性でありながら高強度を有する生分解性プラスチック複合材料の開発に道を開くものであり、生分解性プラスチックの用途を広げることで、海洋プラスチック問題解決に貢献できる可能性がある。
今後の予定
海水中では生分解性が異なる可能性がある。また、アセチル化度が変わると生分解性も変化する可能性がある。今後は、海洋プラスチック問題を念頭に、アセチル化度を変えて海水中での生分解性について調べる。
海水中では生分解性が異なる可能性がある。また、アセチル化度が変わると生分解性も変化する可能性がある。今後は、海洋プラスチック問題を念頭に、アセチル化度を変えて海水中での生分解性について調べる。
<用語説明>
◆リグノCNF
CNFはセルロースナノファイバーの略語であり、パルプなどの植物繊維をナノレベルまでほぐすと得られる、径が3~100nmのセルロース繊維。軽量、高強度、低線熱膨張など優れた特性を示すことから、プラスチックの補強用材料として期待されている。リグノCNFは、京都プロセスで得られるCNF強化樹脂複合材料中に均一分散している、表面にリグニンを残したCNF。
◆京都プロセス
原料である木材や竹などの木質バイオマスからリグノパルプを製造し、それをアセチル化処理後に、プラスチックと溶融混練して、高耐熱CNF強化複合材料を連続的に製造するプロセス。アセチル化パルプが溶融混練時にナノファイバー化しプラスチック中に均一に分散することで、高性能のプラスチック材料を効率的に製造できる。
◆解繊
繊維をほぐすこと。
◆アトライター装置
回転する攪拌棒を有する容器にボール(球形ビーズ)を入れ、攪拌棒でボールを攪拌することで試料の粉砕や分散を行う装置。
◆リグノCNF
CNFはセルロースナノファイバーの略語であり、パルプなどの植物繊維をナノレベルまでほぐすと得られる、径が3~100nmのセルロース繊維。軽量、高強度、低線熱膨張など優れた特性を示すことから、プラスチックの補強用材料として期待されている。リグノCNFは、京都プロセスで得られるCNF強化樹脂複合材料中に均一分散している、表面にリグニンを残したCNF。
◆京都プロセス
原料である木材や竹などの木質バイオマスからリグノパルプを製造し、それをアセチル化処理後に、プラスチックと溶融混練して、高耐熱CNF強化複合材料を連続的に製造するプロセス。アセチル化パルプが溶融混練時にナノファイバー化しプラスチック中に均一に分散することで、高性能のプラスチック材料を効率的に製造できる。
◆解繊
繊維をほぐすこと。
◆アトライター装置
回転する攪拌棒を有する容器にボール(球形ビーズ)を入れ、攪拌棒でボールを攪拌することで試料の粉砕や分散を行う装置。