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【パワー半導体】NICTと東京農工大学、世界初、イオン注入ドーピング技術を用いた縦型酸化ガリウムタイプの開発に成功

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 パワーエレクトロニクスは、電力インフラ、自動車、鉄道車両、産業機器や家電など生活に身近なさまざまなところに適用され、それらの高性能化や省エネルギー化を支える重要な技術分野。汎用の高耐圧スイッチングデバイス※1であるIGBT※2などで日本メーカーが大きなシェアを持つなど、日本に強みがあるこの領域を強化するため、国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が管理法人を務める内閣府プロジェクト「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)/次世代パワーエレクトロニクス」※3では、2014年度からシリコン(Si)に代わる炭化ケイ素(SiC)や窒化ガリウム(GaN)、酸化ガリウム(Ga2O3)※4などの新材料を用いたパワー半導体を製品へ適用するための技術開発を推進し、電力機器の大幅な高効率化と小型化を目指してきた。中でもGa2O3は、耐圧の高さや電力損失の低さといった半導体としての優れた物性を有するだけではなく、高品質・大口径の単結晶基板を簡便で安価に製造できるため、高性能・低コストな半導体電子部品(デバイス)の実現が期待され、現在Ga2O3デバイス開発は世界的に活発化している。
 今般、同プロジェクトで、国立研究開発法人 情報通信研究機構(NICT)と国立大学法人 東京農工大学は、世界で初めて、一般的な半導体量産プロセスに適用可能なイオン注入ドーピング技術※5を用いた縦型Ga2O3トランジスタ※6の開発に成功した。イオン注入ドーピング技術は、汎用性の高い製造技術であり、Ga2O3デバイスを低コストで製造できるため、電機、自動車メーカーなどによるGa2O3パワーデバイス開発の本格化につながると予想される。さらに、本技術による新たな高性能Ga2O3パワーデバイスの開発により、世界的規模での省エネルギー社会実現が期待される。
 なお、本研究成果は、2018年12月3日付オンライン公開された米国電気電子学会(IEEE)誌『IEEE Electron Device Letters』のEarly Access版に掲載されている。12月27日頃に発行される正式版(2019年1月号)にも掲載される。
掲載論文(Early Access 版): Current Aperture Vertical β-Ga2O3 MOSFETs Fabricated by N- and Si-Ion Implantation Doping
 今回の成果は次の通り。
(1)イオン注入ドーピング技術の適用
 世界で初めて、半導体のn型およびp型※7両層をイオン注入ドーピング技術で形成した、縦型Ga2O3トランジスタの製造、動作実証に成功した。イオン注入ドーピング技術は、面内でのデバイス構造の作り込みが容易で、低コストプロセスであるため汎用性が高く、量産にも適しているため、現在、市販の半導体デバイス製造プロセスとして広く用いられている。この成果は、NICTが世界に先駆けて開発に成功した窒素(N)を用いたp型イオン注入ドーピング技術がブレークスルーとなった。
 なお、シリコン(Si)を用いたn型イオン注入ドーピング技術についてはNICTらが本SIPプロジェクト開始前の2013年に開発している。
(2)8桁以上のオン/オフ比
 今回開発した縦型Ga2O3トランジスタは、ゲート電圧によるドレイン電流密度のオン/オフ比※88桁以上を実現している。これは、スイッチングデバイスとして実用上求められる5~6桁以上のオン/オフ比を大きく上回る優れた特性を示している。
 Ga2O3の材料特性、基板の結晶品質の高さ、およびこれまでに開発済みの製造プロセス技術と今回新たに開発したp型イオン注入ドーピング技術の融合が、縦型Ga2O3トランジスタの優れたデバイス特性につながった。
 今後、NICTおよび東京農工大学は、パワースイッチングデバイスとして求められる、ノーマリーオフ化※9、耐圧の向上などの残された課題を解決するための開発を継続する。
 NEDOでは、パワーエレクトロニクス研究開発において、新材料を用いたパワー半導体デバイスの開発を中心に、原料であるウエハや、パワー半導体デバイスをモジュールに組み込む半導体実装や回路設計、および信頼性評価技術など、さまざまな基礎・応用技術の研究開発を実施するなど、パワーエレクトロニクスの適用範囲拡大に取り組んでおり、本分野の発展を通じて日本の産業競争力強化をさらに推進する。
※1 スイッチングデバイス
 電流のオン(通電)とオフ(遮断)を切り替えることができるトランジスタなどの電子部品。
※2 IGBT
 "Insulated Gate Bipolar Transistor"の頭文字をとったもので、絶縁ゲート型バイポーラトランジスタとも言われる。IGBTはパワー半導体デバイスのトランジスタ分野に分類される。車載用から産業機器、民生用までさまざまな用途に使用されている。電車やHEV/EVなどの高出力容量の三相モータ制御インバータ用をはじめUPS、産機電源などの昇圧制御用とその用途が拡大している。(出典:ローム(株)トランジスタの豆知識より)
※3 「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)/次世代パワーエレクトロニクス」
 事業期間:2014年度~2018年度
※4 酸化ガリウム(Ga2O3)
 酸化ガリウムは、ガリウム(Ga)と酸素(O)の化学量論比2:3の化合物で、化学式Ga2O3で表される半導体。結晶構造として、α,β,γ,δ,ε の5つの異なる相が存在することが知られている。それらの中でも、最安定構造であるβ-Ga2O3のバンドギャップは、室温で4.5eV(電子ボルト)。
※5 イオン注入ドーピング技術
 ドーパントと呼ばれる半導体を形成するための不純物元素を、イオン化した後、運動エネルギー10keV(キロ電子ボルト)~数MeV(メガ電子ボルト)程度に加速し、固体に直接注入する加工方法。工業的には、半導体デバイスの製造に多く使用されている。
※6 縦型Ga2O3トランジスタ
 電流がGa2O3基板の厚さ方向に流れるトランジスタ。電流が基板の面内方向に流れるトランジスタ(横型)に比べて小面積で大電流を流すことができるため、またオフ時に距離が長いドリフト層で印加電圧を吸収することができるため、パワー半導体に多く用いられる構造。半導体層を基板の厚さ方向に何層も重ねて作製するため、横型に比べて高い技術が必要とされる。
※7 半導体のn型およびp型
 半導体の電気伝導を担うキャリアには、電子と正孔(ホール)の2種類が存在する。多数キャリアを電子とする半導体のことをn型、多数キャリアを正孔とする半導体のことをp型と称す。
※8 ゲート電圧によるドレイン電流密度のオン/オフ比
 トランジスタのスイッチング性能を示す指標の1つ。この値が大きいほどオン(通電)状態とオフ(遮断)状態の電流量の差が大きいので、デバイスとしての高効率化につながると同時に、高周波でも誤作動なくスイッチングできるなどのメリットがある。
※9 ノーマリーオフ化
 ゲート電圧を印加していないときに、ドレイン電流が流れない特性のこと。これは、故障時の短絡を防ぐなど機器の安全性を確保する上で重要。

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