NEDOプロジェクトにおいて、日立造船(株)を主体とする産学連携グループが開発した高機能バイオ複合材料を用いて、キャスコ(株)は、高い耐衝撃性を実現する機能性ゴルフボール「BIOSPIN(バイオスピン)」として商品化し、2018年4月から販売を開始する。
開発した高機能バイオ複合材料は、非可食性バイオマスである杜仲(トチュウ)が作り出す高分子化合物のバイオトランスポリイソプレンを用いてスポーツ材料に応用したもの。今後、耐衝撃性や高強靱性に優れた高機能バイオ複合材料は、これらスポーツ分野のほか、自動車等の輸送機器の内装や生体材料分野など、さまざまな分野への応用が期待される。
NEDOは、非可食性バイオマスから最終化学品までの一貫製造プロセスを構築し、石油から非可食性バイオマスへ原料の転換を図ることを目的としたプロジェクト(※1)を推進している。
このプロジェクトにおいて、日立造船、大阪大学、キャスコの産学連携グループは、非可食性バイオマスである杜仲(トチュウ)(※2)が作り出す高分子化合物のバイオトランスポリイソプレン(※3)のスポーツ材料への応用を目指し、スポーツ材料として最も過酷な条件とされるゴルフクラブによるボール打撃に耐えうる高機能バイオ複合材料を開発した。
具体的には、ゴルフボール表面のカバー材用途の材料として、バイオトランスポリイソプレンとベースゴムへのイオウ架橋(※4)(加硫)条件を検討し、破断時伸びと破断強度を両立する最適条件を見いだした。この加硫条件に加えて、シリカとの結合条件を最適化するシランカップリング剤(※5)の選定も行うことで、破断時伸びと破断強度をより一層向上させることができた。
この成果をもとに、キャスコは、開発した材料をゴルフボール表面のカバー材として採用し、高い耐衝撃性を実現する機能性ゴルフボール「BIOSPIN(バイオスピン)」を商品化し、2018年4月より販売を開始する予定。
今後、耐衝撃性や高強靱性に優れた高機能バイオ複合材料は、これらスポーツ分野のほか、自動車等の輸送機器の内装や生体材料分野など、さまざまな分野への応用が期待される。これにより、石油から非可食性バイオマスへ原料の転換を図り、低炭素化社会の実現を目指す。
※1 プロジェクト
名称:非可食性植物由来化学品製造プロセス技術開発/非可食性バイオマスから化学品製造までの実用化技術の開発/植物イソプレノイド由来高機能バイオポリマーの開発
期間:2013~2016年度
参加機関:日立造船(共同研究:大阪大学、委託:キャスコ)
※2 杜仲(トチュウ)
地球上の栽培可能面積が最も広い温帯域で栽培可能な植物であり、植物体の全体にバイオトランスポリイソプレンを含む。なお、100年ほど前、日本の植物学者の父と言われる牧野富太郎博士らにより、硬質ゴムを含むバイオマスと紹介されている。
※3 バイオトランスポリイソプレン
植物が体内で合成する高分子化合物で、トチュウ由来のトランスポリイソプレンは天然ゴムの主成分であるシスポリイソプレンとよく似た化合物であるが、分子の立体構造の違いから硬質であるという特徴を有する。
※4 イオウ架橋
加硫と呼ばれる架橋反応の一種で、ゴム系の原材料(生ゴムなど)を加工する際に、弾性率を向上させるために硫黄などを加えること。
※5 シランカップリング剤
分子内の官能基により有機材料と無機材料を結ぶ働きをすることから、複合材料の機械的強度の向上や接着性の改良、樹脂改質、表面改質などに使用される