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【知覚判断】情報通信研究機構、ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン、ウェスタンユニバーシティ、感じることと行うことの非独立性を実験証明

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  国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)、ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン(UCL)およびウェスタンユニバーシティは共同で、「どのようなものを見ているのか」という知覚判断は、見た内容だけでなく、見た内容に伴う運動行為にかかる負荷を反映していることを実験的に証明した。
 これまで、外部から脳への入力処理である知覚判断と、脳から外部への出力処理である運動行為はそれぞれ独立したものであり、運動行為は単に知覚判断の結果を反映するだけと考えられてきた。しかし、NICT脳情報通信融合研究センター(CiNet)の羽倉信宏研究員らのチームは、今回の実験により、両者は密接に関連しており、外界に働きかける運動行為が、実は、私たちが外界をどのように認識するのかの知覚にも役立てられていることを明らかにした。
 本研究の一部は、日本学術振興会の科学研究費補助金および海外特別研究員制度の支援を受けて行われた。この成果は、神経科学の国際科学誌「eLife」オンライン版に2月21日掲載された。

背景
SnapCrab NoName 2017 2 23 7 44 28 No 00 R イソップのキツネと葡萄の寓話では、キツネは跳び上がってもなかなか届かないところにある葡萄を「熟れていないんだ!」と判断する。寓話では、このキツネの判断は負け惜しみとして描かれる。しかし、果たしてキツネは本当に負け惜しみを言っているのだろうか。それとも、跳び上がるという運動行為にかかる労力によって、実際に葡萄が「熟れていない」ように見えて、そのように判断したのではないのか。
 これまで、脳への入力情報の処理である知覚判断と、脳からの出力情報の処理である運動行為は、それぞれ独立なものであると考えられてきた。
 つまり、一番熟れている葡萄を選び出すための入力処理(知覚判断)と、その葡萄を取ろうとする運動を作り出すための出力処理(運動行為)は独立であり、運動行為は単に知覚判断を反映するためだけのものと考えられてきた。本研究では、その定説が正しいかどうかを確かめる実験を行った。

今回の成果
 今回、羽倉研究員らのチームは、画面上の点の動きを判断するという見たものを判断する課題(例: 葡萄の熟れ具合を判断する課題)のパフォーマンスが、見た内容とは関係のないはずの、その判断を明示するための行為(例: 葡萄を取る運動)にかかる労力によって影響を受けることを実験で証明した。  本研究によって、見ているものが一体何なのかを判断するとき、我々は視覚情報のみを利用しているわけでなく、判断の報告に至るまでの処理すべてを利用して行っていることが明らかになった。

実験の概要
 被験者は、画面の中心に表示される多数の点の動きが、全体として右に動いているのか、左に動いているのかを判断する課題を行った。両手にはそれぞれハンドルを握り、右に点が動いていると判断した場合には右手のハンドルを動かし、左に点が動いていると判断した場合には左手のハンドルを動かしてもらった。
 最初、右のハンドルと左のハンドルを動かすために必要な力(負荷)は同一に設定されているが、途中から片方のハンドルを動かすための負荷が徐々に増大する。負荷は時間をかけて少しずつ増大し、最終的には両手間で2倍弱ハンドルを動かすのにかかる負荷をかけたが、被験者は両手間の負荷の差に気が付かなかった。両手間で負荷に差がない場合と、ある場合で、点の動きの判断のパフォーマンスを比較した。すると、被験者は運動負荷の存在に気が付いていないにもかかわらず、運動負荷の大きな方向の視覚判断を避けるようになった。これは、運動行為にかかる負荷が、「点の動き方向」という視覚入力の知覚判断に影響を与えたことを意味する。
 では、この知覚判断に影響を与えた運動負荷は、「葡萄の熟れ具合」といった見たものの知覚判断そのものを変化させるのだろうあか。それとも、見たものの知覚判断は保ったまま、「つらい運動はやめる」というように運動行為の選択のみを変化させるのだろうか。この問いに答えるために、被験者は上の実験と同様に、負荷に差のあるハンドルを使って、点の動きの判断を行った。そして、運動負荷の高い判断を避けるようになった時に、今度は手を使わずに口答で判断を行ってもらった。もし、点の動きそのものに対する判断が手の運動負荷によって変化したのであれば、口答で判断する際も、手を用いた判断の際に運動負荷の高かった方の判断を避けるはず。しかし、もし「手」で行うつらい運動を避けているだけなら、口答での判断は変化しないはず。
 結果は、口答判断にも事前に経験した手の負荷の情報が反映されることが分かった。つまり、片方の手に負荷のかかった判断を繰り返すことで、点の動きそのものに対する判断が変容したと考えられる。

今後の展望
 運動行為にかかる負荷が想像以上に我々の意思決定に反映されているという本研究の結果は、例えば、製品の見た目によるデザインと、使いやすさ(行為の負荷)は独立でないことを示唆しており、新しい製品デザインの開発等に役立てられることが期待される。また、我々の日常行為は、些細な癖が存在するなど、必ずしも適応的ではない。そのような非適応的な行為の負荷を増やすような環境をデザインすることで、ヒトの情報処理・行為の適応性を高めるような研究にも着手する予定。


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