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【デジタルアーカイブ】凸版印刷、北斎幻の大絵馬「須佐之男命厄神退治之図」を推定復元

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凸版印刷(株)は、墨田区が進める、葛飾北斎晩年最大級の傑作といわれる大絵馬「須佐之男命厄神退治之図(すさのおのみこと やくじん たいじのず)」の復元プロジェクトに参画。関東大震災で焼失した「須佐之男命厄神退治之図」の残された白黒写真から、凸版印刷の最先端デジタル技術を活用し、撮影された当時の彩色された絵馬を原寸大で推定復元した。極めて難易度の高い白黒画像からの色彩復元だが、凸版印刷が培ったデジタルアーカイブ技術と伝統技能を有する職人達の技、科学的調査と美術史などの知の調和融合によって復元した。

 なお、この推定復元された「須佐之男命厄神退治之図」は、2016年11月22日(火)に墨田区両国にオープンした「すみだ北斎美術館」にて一般公開される。

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「 須佐之男命厄神退治之図 」 推定復元(原寸大) 完成図

■葛飾北斎「須佐之男命厄神退治之図」の推定復元ついて

 「須佐之男命厄神退治之図」は、弘化2(1845)年、北斎が86歳の時に描いた肉筆画で、牛嶋神社(東京都墨田区)に奉納された。須佐之男命と、その従者の前に15体の様々な厄神がひざまずき、今後悪さをしないように証文を取られているところが描かれている。幅約2m76cm╳縦約1m26cmという北斎晩年最大級の傑作であったが、大正12(1923)年の関東大震災で焼失した。しかし、日本最古の美術雑誌「國華」240号(明治43(1910)年刊)などに、白黒コロタイプ印刷(※1)の画像が掲載されており、これが現代に残る画像資料となっている。

 今回、「すみだ北斎美術館」開館を進める墨田区から、これまでの浮世絵版画や版本のデジタルアーカイブ撮影および複製制作における実績や、文化財取扱への評価を受け、凸版印刷は平成27(2015)年より、「須佐之男命厄神退治之図」調査および推定復元制作に着手した。

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「國華」240号(明治43年5月号)掲載 (國華社)

■推定復元の作業について

 推定復元の精度を高めるため、科学的観点と人文学的観点の双方から、それぞれの専門家の監修の元で調査を実施。同社は、これまでに培ったデジタルアーカイブの知見を活かし、監修の協力を得ながら色彩の推定復元プロセスを設計、構築。プロジェクトのキーとなる再現撮影を担うとともに、分野の異なるプロフェッショナルが集まる同プロジェクトで、その知見を融合し、復元を実現化する役目を果たした。

1)写真科学的調査

 「國華」掲載の白黒画像は、明治時代の高い技術で撮影され、高精細かつ保存性の高いコロタイプ印刷で残されていた。この画像における白黒の階調と、その元となった絵具の色との関係性を適切に理解するには、当時の撮影技法を解明する必要があった。そのため、同時期に発行された「國華」に掲載され、なおかつ現存している作品を調査。条件に最適であった作品を所蔵する徳川美術館(愛知県名古屋市)の協力により調査撮影を実施、感光材料や撮影技法についての分析を行った。

 この分析結果により推定された条件で復元図を撮影。その結果と「國華」の白黒画像とを比較することで、彩色の妥当性について客観的な検証ができるようになり、写真科学的な評価方法が確立された。この評価方法は、東京文化財研究所 保存環境研究室長 吉田直人氏の工程監修のもと、構築した。

2)人文的調査

 天野山文化遺産研究所代表理事山内章氏の協力を得て、北斎が晩年に残した絵手本『画本彩色通』(えほんさいしきつう)や、同時期に描いた肉筆画などを調査することで、絵具の重ね方・線の描き方といった晩年の北斎の表現技法に迫った。さらに、水損・剥落状態など画像上の作品のコンディションから使用された絵具の性質を求めるなど、撮影画像に記録された情報も精密に調査した。

 描かれたモチーフに関わるような民俗学や民間信仰、有職故実、江戸時代の疫病やその浮世絵表現を参照し、より確かな復元図となるよう彩色・配色とその根拠を追及した。また、作品の美術史的観点からの意義やテーマの読み取りについて、十文字学園女子大学 准教授 樋口一貴氏の協力を得て調査した。

3)原寸大彩色複製の制作

 複製制作は、繰り返し行う検証・修正作業に耐えられる技術として、肉筆ではなくデジタル技術を選択。作品の表現の豊かさを損なわないため、曖昧になった線描の描きおこしや彩色見本の制作については職人の手作業を活用することで、デジタル技術と伝統技術とを融合した。さらに作業経過は調査段階で確立した再現撮影法による科学的評価や北斎の専門家による人文的評価を重ね、検証と修正を繰り返し行うことで精度を高めた。インクジェットでは表現できない金箔・金泥や、特殊な表現技法については、手作業での仕上げを施し、この絵馬の原寸大彩色複製を完成させた。

※1コロタイプ印刷:コロタイプ印刷とは、写真製版法を使った印刷技法の中で最も古いもので、網点の大小ではなく、版面のゼラチンの不規則なしわを利用し、そのインキの受容性の多少によって濃淡を表現する印刷方法である。平版方式で網点を用いない連続階調の印刷方法であり、代表的な長所は写真の調子を他のどの版式よりもよく複製できることである。このためコロタイプ印刷は、写真や絵画などの複製を得意とし、網点では再現できない印刷に利用されてきた。

 


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