大阪大学産業科学研究所の上谷幸治郎助教らの研究グループは、セルロースが高熱伝導性を有することを発見した。これまで紙は断熱材として認識されていたが、セルロースナノファイバーを高密度のシート材料へと成形することで高い熱伝導性が発揮することを見出した。
谷幸治郎助教らの研究グループは、天然のバイオマス資源から抽出したセルロースナノファイバーを用いて、高い熱伝導性を示す紙材料「ナノペーパー」を2015年に世界で初めて開発した。特に、ホヤの殻から抽出したナノファイバーで作ったナノペーパーは、プラスチックより約10倍高い熱伝導性を示している。同シーズ材料により、高密度実装による熱問題が課題となっている電子デバイスにおいて、高効率の排熱を可能にする基材の開発が期待されている。
■研究の背景
これまで紙や衣服に日常的に活用されるセルロースは断熱材と考えられていた。従来のセルロース繊維は、空気層を含みやすいパルプの構造を保っているため、断熱紙や断熱建材などとして用いられ、高い断熱性を発揮することが知られている。そのためか、セルロース自身の熱伝導特性についてはあまり注目されておらず、これまで未解明となっていた。
上谷助教らの研究グループでは、2015年に、天然に製造される形態のセルロースナノファイバーを抽出し、高密度に充填させたナノペーパーを作製することで、熱伝導性を実測した。その結果、ホヤ殻から作ったナノペーパーが石油系プラスチックフィルムの10倍程度高い熱伝導率(※3)を示し、従来のセルロースは断熱素材であるという認識を覆した。この高い性能は、セルロース分子鎖が伸び切って配列した高結晶体であることに由来すると見られ、セルロースの隠れた性能を明らかにすることに成功した。
その後も、上谷助教らの研究グループは、この「熱拡散する紙材料」を元にして、透明樹脂を複合した「透明でも伝熱する紙」(2016年10月4日「Journal of MaterialsChemistry C」)や、繊維の配向性を制御することによる「熱の流れを制御する紙」を開発した。
今回の研究成果により、従来断熱材としてのみ認知されていたセルロースを初めて「伝熱材料」として活用できることが見込まれる。すなわち、セルロースは断熱材から伝熱材まで幅広い「熱用途」に対して包括的に使えるようになる。一例として、フレキシブル電子デバイスの効率的な排熱が可能な熱拡散シートや、人体に触れる衣服・寝具・医療器具類の熱感応部材(冷たさや暖かさをすばやく感じさせる部材)としての活用が期待できる。